『夜をこえて、私になる』
第十三章 言葉にすれば、届くから
「……先輩、今日も来てくれてありがとうございます」
夕暮れの河川敷。風が草を撫でる音にまぎれて、沙希の声が小さく響いた。
「うん。沙希ちゃんの顔が見たかったから」
高嶺先輩は、変わらぬ落ち着いた声で答える。その声に、沙希は少しだけ頬を緩めた。
「……あのね、私、この前……すごく、怖い思いをしたんです」 「うん。無理に話さなくてもいいよ」 「でも、聞いてほしいです。私、自分の趣味のことで……信じてた人に会ったら、すごく嫌な目にあって」
沙希は膝を抱えながら、視線を遠くの雲に向けた。
「私は、“好き”って言ってくれる人がいるだけで舞い上がってた。優しくしてくれた言葉を、そのまま信じたかった。でも……現実は違った」
「……沙希ちゃん、それでも、今こうして話してくれてありがとう」
高嶺の声は、少しだけ揺れていた。
「怖かった。人を信じるのが、また怖くなった。でも……」
沙希はゆっくりと彼の顔を見上げた。
「先輩の前では、なぜかちゃんと自分のこと話せるんです」 「それは、沙希ちゃんがちゃんと自分で、言葉にしようとしてるからだよ」 「……先輩は、私の“変わった趣味”って、嫌じゃないんですか?」 「嫌じゃない。沙希ちゃんがそれを大切にしてるって思えるから。……沙希ちゃんの全部を、否定する気はないよ」
沈黙が落ちた。
でも、それは苦しさから来るものではなく、心の奥に染み入るような、あたたかな沈黙だった。
「私ね、変わりたいって思ってた。おむつや、わざとおもらしとか、全部やめなきゃいけないって。でも……」
「でも?」
「好きなものを好きって言える自分でいたいです。たとえそれが、変だって思われても」
高嶺は、ゆっくりと笑った。
「その勇気、とても素敵だと思う」
沙希は照れくさそうに笑って、頷いた。
「先輩が、そう言ってくれるだけで……なんだか、救われた気がします」
「救うとかじゃない。沙希ちゃんがしっかりと、自分を見つけようとしてる。それが嬉しいだけ」
風が、またそっと二人の間を通り抜けた。
「ねえ、先輩」 「うん?」 「次にもし私が、自分の“好き”をもう一度発信するとき……一緒にそばにいてくれますか?」 「もちろん。ずっと、そばにいるよ」
沙希は、笑った。 その笑顔は、夕焼けの中で確かに輝いていた。
(もう、怖くなんかない。だって、ちゃんと伝えられたから)
*
その夜、沙希は自分の部屋でおむつを広げながら、ふとため息をついた。
以前のようにおむつに対してポジティブな感情ではなくなっていた。
「……やっぱり、また戻っちゃったな」
SNSでの出会いに傷ついた日から、気持ちが不安定になり、眠るたびに悪夢を見るようになった。
そして、止まっていたはずのおねしょが再発してしまったのだ。
「大丈夫、大丈夫……ちゃんと守られてる」
そう自分に言い聞かせながら、沙希はおむつを身に着け、毛布の中へ潜り込む。心の中で、今日の高嶺先輩の言葉を何度も繰り返した。
(わたしは、わたしでいい。怖がっても、また前に進める)
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ちょっと今回ね、セリフ多めでしょ?
なんでかっていうと、朗読バージョンを用意しておりますっ笑

聞いてみたんだけど、めっちゃ映画のワンシーンみたいで爆笑🤣

爆笑するシーンじゃ全くないんだけどね!
BGMの偉大さを感じたね😌
なんか程よく曲の感じとフィットしてて良い感じだから、笑っちゃったよね。
爆笑するシーンじゃ全くないんだけどね!(2回目)

分かったから、はよリンク貼っといてよねーっ

そうだったね!
静かなところで聞いた方がいい感じに聞けるかも😊
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夜をこえて、私になる〜第十三章〜 朗読Ver.

