『夜をこえて、私になる』
第九章 見つけてほしい私
「誰かに見られること」って、どうしてこんなに怖くて、でも惹かれるんだろう。
春の午後。
柔らかい光の中で、沙希はベッドの上に座っていた。
着ているのは、ピンクのロンパース。
脚の付け根には、動くたびにおむつの白い生地が見え隠れしている。
くまの絵が描かれたスタイを首にかけて、手には哺乳瓶型の水筒。
静かな安心感。けれど、どこか物足りなさもあった。
(誰にも見せない。……それがルールだった)
でも最近、それが揺らぎ始めていた。
きっかけは、偶然だった。
「大人 おむつ 好き」で検索したときに出てきた、あるハッシュタグ。
「#ABDL」
「#adultbaby」
「#diaperlover」
目が釘付けになった。
「……こんな言葉があるんだ」
画面に映るのは、可愛いデザインの大人用おむつ、ぬいぐるみ、スタイ、ロンパース。
そして――大人でありながら、それを身につける人たちの姿。
そこには、驚くほどの安心があった。
否定されていない。笑われてもいない。
むしろ――「かわいいね」「そのままでいていいよ」と、優しい言葉が溢れていた。
(私と、似てる……)
気がつくと、小さなアカウントを作っていた。
名前も顔も出さない。
でも、ほんの少しだけ自分を出してみたかった。
“この気持ち”が誰にも否定されない世界を、確かめたかった。
最初の投稿は、恐る恐るだった。
顔は写らないようにロンパースの袖だけが見える、腕だけの写真。
タグにはこうつけた。
#ABDL初心者
#安心できる場所
#ただの私
心臓が跳ねるようだった。
けれど、数時間後――通知が鳴った。
「とてもかわいい!」「わかるよ、その気持ち」「そのロンパースどこで買ったの?」「かわいい赤ちゃんだね」「おむつ履いてますか?」!?
誰とも知らない人たちのリプライに、なんだか嬉しく涙が滲んだ。
(……見てほしかったんだ、私は)
現実の誰にも言えない秘密。
だけど、ここならほんの少し、息ができる。
それから、沙希は時折、投稿を続けるようになった。
顔は映さず、シルエットや手の写真。
そしてくま柄のスタイ。おもらしで膨らんだおむつ。ロンパースを着て赤ちゃんになってる自分。
自分の好きを誰かに認めて欲しくて、共感して欲しくて、そんな自分をSNSの向こう側の人たちに見てもらいたかった。
見せるたび、怖さと心地よさが背中合わせにやってきた。
(これは、悪いことなの? それとも……)
ある日、ふと思った。
「高嶺先輩が見たら、どう思うんだろう」
考えた瞬間、ゾクッと背筋が冷えた。
けれど、同時にほんの少し――見つけてほしいという気持ちも、どこかにあった。
(……ダメだ。それだけは……)
画面を閉じ、毛布にくるまる。
でもその夜、夢の中で沙希は、誰かに抱きしめられていた。
姿は見えない。でも確かに、ぬくもりがあった。
「見てくれて、ありがとう」
そんな声が、夢のなかで響いていた。
・
・
・

いや〜、ほんと…

いや、待て待て待て!!
一箇所めっちゃ気になるところあったんですけどっ

え…?なになに?
どうしたん?

わざわざ「おむつ履いてますか」リプは書かんでもいいでしょっ!

でも、あるあるでしょ?
そこはホラ、おむつ女子さんは特にさぁ笑

この回で一番いらない一言かなって!
!?ってなっちゃったじゃない笑

気をつけます、ちょっとふざけちゃいました🥺
